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岡山地方裁判所 平成2年(ワ)59号 判決

原告

岩野英世

ほか一名

被告

三好邦幸

ほか三名

主文

一  被告三好邦幸は、原告岩野英世に対し金二九四八万三七五四円、原告岩野早苗に対し金三五九二万三七五四円及び右各金員に対する昭和六三年一〇月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告全国労働者共済生活協同組合連合会は、被告三好邦幸に対する本判決確定のとき、原告岩野英世に対し金二九四八万三七五四円、原告岩野早苗に対し金三五九二万三七五四円及び右各金員に対する昭和六三年一〇月二一日から完済まで年五分の割合による金員を、金一億円の限度内で、支払え。

三  原告らの、被告三好邦幸及び被告全国労働者共済生活協同組合連合会に対する、その余の各請求並びに被告三好規允と同三好二三子に対する各請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告らと被告三好邦幸及び被告全国労働者共済生活協同組合連合会間で生じたものは二分し、その一を原告ら、その余を同被告らの負担とし、原告らと被告三好規允と同三好二三子間で生じたものは全部原告らの負担とする。

五  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告三好邦幸(以下、被告邦幸という)、被告三好規允(以下、被告規允という)及び被告三好二三子(以下、被告二三子という)らは各自、原告岩野英世(以下、原告英世という)に対して金七〇〇〇万円、原告岩野早苗(以下、原告早苗という)に対して金八〇〇〇万円及び右各金員に対する昭和六三年一〇月二一日から完済まで年五分の金員を支払え。

2  被告全国労働者共済生活協同組合連合会(以下、被告連合会という)は、原告らの被告邦幸に対する本判決確定のとき、原告英世、同二三子に対して、各金五〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年一〇月二一日から完済まで年五分の金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故

昭和六三年一〇月二一日午後七時四三分頃、岡山市津島笹ケ瀬一番九号先国道上において、被告邦幸運転の普通乗用自動車(以下、被告車という)が、道路左側を走行中の亡岩野和美(昭和三七年二月一五日生、以下、亡和美という)運転の原動機付自転車に、その背後から衝突し、その結果、亡和美は被告車と道路側壁との間に挟まれて即死した。

2  責任原因

(1) 被告邦幸は運転免許停止中にもかかわらず、被告車を運転したうえ、制限速度を越え、前方を注視しなかつた過失により本件事故を発生させたものであるから、自賠法三条、民法七〇九条により損害賠償責任がある。

(2) 被告邦幸は、本件事故当時までに度々交通法規に違反し、父母の被告規允、同二三子は、その事を充分に知つていたものであるから、運転を一律に禁止するため、いかなる理由があつても車両を他に貸してはならず、その保管を継続すべき義務があつたところ、これに違反したために、本件事故が発生したものであるから、被告規允、同二三子は、自賠法三条、民法七〇九条により損害賠償責任がある。

(3) 被告連合会は被告規允との間で、被告邦幸を被共済者、被告車を被共済自動車として、対人賠償共済金限度額を被害者一名につき一億円とし、本件事故当日を共済期間内とする自動車共済契約を締結しており、その約款一三条では被共済者の負担する法律上の損害賠償責任が発生した時は、損害賠償請求権者は、被告連合会が被共済者に対して填補責任を負う限度で同被告に対して所定の損害賠償額の支払を請求することができると定めているから、被告連合会は、被告邦幸に対する本判決確定を条件として、原告らに対して右対人賠償共済会の限度内で損害金支払の義務がある。

3  損害

(1) 亡和美の逸失利益 三億二二九五万九〇〇〇円

亡和美は昭和六三年三月岡山大学歯学部を卒業して歯科医師免許を取得し、同年四月から市内の歯科医院に勤務歯科医として勤め、事故当時、同じ勤務歯科医との婚約を済ませて平成元年六月の結婚を目前に控えており、そして結婚後は夫と共に独立開業して歯科医院を営む予定であつた。

従つて、亡和美の逸失利益は独立開業後の歯科医の平均所得額を基準として算定すべきところ、昭和六二年度の開業歯科医の全国平均の所得額は年額一六二五万九〇〇〇円である。

そして、生活費控除率は、亡和美が一家の支柱であることから三〇パーセントが相当であり、死亡時二六歳であつたので今後六七歳まで就労可能であるから、その逸失利益は少なく見積もつても掲記の金額となる。

(2) 亡和美の慰謝料 三〇〇〇万円

亡和美は婚約中で独立開業も保障され、これから幸せになるという矢先に被告邦幸の無謀運転により生命を奪われたもので、その無念さは察するに余りあり、慰謝料は掲記の金額が相当である。

(3) 原告英世は亡和美の父で、原告早苗は母であり、原告らは各二分の一の割合で相続した。

(4) 原告早苗の損害 合計 六九五万九四五〇円

イ 倉本石材からの墓地購入代、墓石、墓地地廻石、線香立等 三九二万九〇〇〇円

ロ トモエ葬祭の葬祭料、位牌、法名料、読経料、法要費用、供花等の諸費用 三〇三万〇四五〇円

(5) 原告ら固有の慰謝料 各二〇〇〇万円

原告らは亡和美が幼い頃から、その成長を楽しみにし、岡大歯学部合格後は将来、歯科医として独立開業する同女を誇りにし、生きがいとして来たものであり、亡和美も原告らの老後を見ると約束していたものであつて、原告らはそれを期待していた。

しかるに、原告らの生きがいは本件事故により一瞬にして消え失せたものであつて、この精神的苦痛の慰謝料は原告らに各二〇〇〇万円が相当である。

(6) 原告らの弁護士費用 各一〇〇万円

原告らは、原告ら訴訟代理人弁護士に本件の提起追行を委任しているところ、その費用として少なくとも原告らに各一〇〇万円が相当である。

4  損害の填補

原告らは自賠責保険金二五〇〇万円の支払を受けたので、その二分の一の各一二五〇万円を、それぞれ損害の填補に充てた。

5  結び

被告らに対して、前記各未填補損害金の内金として、請求の趣旨のとおり支払いを求める。

二  請求原因の認否

被告邦幸、同規允、同二三子

1  1の事実は認める。

2  2の(1)の事実は認める。同(2)の事実中、被告規允と同二三子が被告邦幸の父母であることは認めるが、その余の事実は否認する。同(3)の事実は認める。

3  3の(1)、(2)の各事実は不知。同(3)の事実は認める。同(4)ないし(6)の各事実は争う。

4  4の事実は認める。

被告連合会

1  1の事実は認める。

2  2の(1)の事実は認める。同(2)の事実は否認する。同(3)の事実は、被告連合会が約款上、主張の要件で所定の損害金支払義務を負担するという限度で認める。

3  3の(1)の事実中、亡和美が勤務歯科医であつたことは認めるが、その余の事実は不知。同(2)の事実は争う。同(3)の事実中、身分関係は認めるが、その余の事実は不知。同(4)ないし(6)の各事実は争う。

4  4の事実中、自賠責保険金二五〇〇万円受領の事実は認めるが、填補関係は不知。

第三  証拠は本件記録中の書証、証人等の各目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び同2の(1)の各事実は当事者間に争いがない。

二  被告規允及び同二三子の責任

被告規允及び同二三子が被告邦幸の父母であることは争いがなく、右争いがない事実に甲第一二、一三、一六、一八、二七、二八、三〇、三一、三二、三四、三六号証、被告規允及び同二三子の各本人尋問の結果によると、以下のような事実関係を認めることができる。

被告邦幸は被告規允及び同二三子を父母として、昭和四四年一〇月二二日に生まれたもので、本件事故当時は満一九歳に一日足りない年齢にまで達していたこと、被告邦幸は高校中退後、昭和六三年五月頃から防水工業の会社にアルバイトとして勤め始め、同年八月初め頃、正式に防水工として雇用されたこと、同被告は、高校一年頃バイクを無免許運転し、親が学校から呼び出しを受けたことがあつたこと、同被告は昭和六一年一二月三日、原付免許を取得して以来、定員外乗車、尾燈等不良、ヘルメツト着用義務違反等の前歴があつたこと、その後昭和六三年六月二日普通免許を取得し、同年六月頃、通勤用として中古車の被告車を八〇万円で購入し、代金の支払いはローンを組み、月々の支払いは同被告が負担したこと、父の被告規允は被告連合会との間で共済契約を締結し、共済掛金を負担しているが、自賠責保険は子の被告邦幸が付保し、保険料も同被告が負担したこと、同被告は通勤に被告車を利用していたが、同年七月一日初心者標識表示義務違反を、次いで同月二二日にスピード違反を犯し、同年八月一六日に免許停止三か月の処分を受けたこと、父の被告規允は子の被告邦幸が無免許運転することを防ぐため、スペアキーを含めて車のキーを預かり、更に同年八月末頃、父の不在中に被告邦幸が友人に被告車を貸与するような事態が懸念された結果、父の被告規允は被告車が子の目に触れないようにするために、被告車を自宅から自己の勤務先に移動して保管したこと、そして、同年一〇月初め頃、被告車を修理に出したが、その代金は被告邦幸が負担した。

本件事故当日、被告邦幸は免許停止中であつたが、友人で職場の同僚でもある安田と遊んだ後、同人が普通免許を有し、被告車を同人が運転する旨父の被告規允を欺いて被告車の交付を受けることを示し合わせたうえ、被告規允に、その旨電話をした後、安田と連れ立つて、父の被告規允の勤務先に赴き、同被告に安田が運転するので被告車を貸して欲しい旨嘘を言つて車のキーの交付を求めたこと、父の被告規允は過去に、安田から運転免許を有している旨の説明を受けていたことや、同人が車に乗つて遊びに来たこともあつたことから、予て同人には運転免許があるものと信じていた結果、安田が運転するものと信じて被告車を安田に渡し、安田が被告車を運転し、被告邦幸が助手席に乗つて同所から立ち去るのを見届けたこと、前記のとおり、被告邦幸は自己が運転する旨真実の事を言えば、父親から被告車を渡して貰えないため、安田が運転する旨父を欺いたものであつたことから、父の勤務先から二、三キロ走行した地点で安田と運転を代わり、そこから被告車を運転していた際に、本件事故を起こしたものであつた。

右のとおり認められる。

以上認定の事実によれば、被告邦幸に交通違反の前歴はあるものの、本件前に、本件のように父親を欺いて被告車の交付を受けた事実を認めさせる証拠がない本件において、主張のように、前歴の存在の一事から、父の被告規允や母の同二三子らにおいて、如何なる理由があつても、被告車の保管を継続すべきであつて、被告邦幸以外の他者に対しても被告車を交付してはならない義務があつたものと即断することはできない。

しかして、前認定事実によれば、父の被告規允は子の被告邦幸が運転免許の停止処分を受けた後、車のキーを取り上げ、その後それだけでは不十分であるとして、更に被告車自体を自己の勤務先に運んで保管するというように、被告邦幸が運転できないように被告規允の厳重な管理下に置いていたところ、事故当日、子の被告邦幸から前認定のように欺かれて被告車を運転免許を有する旨信じていた安田に被告車を交付したものであつて、このような被告車の管理状況、故意に欺かれて被告車の占有を安田に移転した経緯等に徴すると、母の被告二三子はもとより、被告規允においても、子の被告邦幸が事故当時運転中の被告車に対する運行支配及び運行利益を有していたものということはできないし、また、子の被告邦幸が嘘をついていることを知らなかつた被告規允は、前記のとおり自己の下に厳重に保管して被告車の管理をしていた父親の心情としても、子の被告邦幸が自己に嘘をついてまで被告車を運転することを当然に予想すべきであつたということも出来ないところであるから、母の被告二三子はもとより、父の被告規允においても、子の被告邦幸が運転することを知りながら、あるいは知りうべき事情の下に被告車の交付をしたものということは出来ないところであつて、被告規允、同二三子が親権者として、子の被告邦幸に対する自動車運転をしないように監督すべき義務を怠つた結果、本件事故が発生したものということはできないというべきであるから、同被告らに民法七〇九条の責任があるということもできないというべきである。

三  被告連合会の責任

弁論の全趣旨に丙第三号証によると、「被告連合会が被告規允との間で、被告邦幸を被共済者、被告車を被共済自動車として、対人賠償共済金限度額を被害者一名につき一億円とし、本件事故当日を共済期間内とする自動車共済契約を締結しており、その約款一三条で「対人事故によつて被共済者の負担する法律上の損害賠償責任が発生したとき、損害賠償請求権者は、被告連合会が被共済者に対して填補責任を負う限度で同被告に対して、所定の損害賠償額の支払を請求することができる。」旨定めていることが認められる。

四  損害

1  亡和美の逸失利益

甲第四五、第四六号証、原告早苗本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、「亡和美は昭和三七年二月一五日出生し、昭和六二年三月、岡山大学歯学部を卒業して同年五月歯科医師免許を取得し、岡山市内の歯科医院に歯科医師として勤め、歯学部同期生の勤務歯科医師と婚約を済ませて平成元年六月の挙式を控えていたこと、そして、婚姻後は、夫と共に独立して開業する計画を有していた。」ことが認められるのであるが、亡和美は婚姻後は主婦として、子の出生後は母としての役割も加わることが必然であることからすると、歯科医師として稼働する時間が当然制約されることになるうえ、開業地域や、その規模等の如何により、その売上や経費等に差異のあることは免れず、加えて証人福島範明の証言によると、歯科医師の過剰傾向と開業資金の点から歯科医院を開業しにくくなる傾向にあると判断される状況にあることも認められるのであり、これらの特殊或いは個別の事情や将来の予測出来ない諸般の事情を考慮に入れると、原告らが主張するように、亡和美が独立開業医師の平均所得を、その全稼働期間にわたり取得できるものとすることは、非現実的であつて採用できないものというべきである。

しかし、他方、原告早苗本人尋問の結果、弁論の全趣旨から認められる事故当時の一か月二五万円の収入は、亡和美が歯科医師となつて、それ程時日が経過していない時期の収入であつて、これを基礎として、その全稼働期間の所得を算定することも、また常識に合わない不合理なものと言わざるを得ない。

そこで、亡和美の死亡当時即ち本件事故当時に接着した時点における勤務歯科医師の平均所得をもつて、亡和美の全稼働期間にわたる所得と認定することが、本件の場合、最も実情に合致するものと解されるところ、甲第四号証の二(民間医療機関勤務歯科医師の給与動向)によると、平成元年四月分の勤務歯科医師の平均月収は五三万七六四〇円であることが認められるので、右数値を基礎に亡和美の逸失利益を算定するのが相当である。

しかして、前認定のとおり、亡和美が婚姻後は主婦として、子の出生後は母としての役割も加わり、そのため歯科医師として稼働し続けるには相当の出費を要すると解されることからすると、前記収入を得るために要する経費としての性格を持つ生活費は、その収入の少なくとも四五パーセントとみるのが相当である。

そして、亡和美は本件事故当時満二六歳であつたから、今後満六七歳まで四一年間稼働可能というべきである。

そうすると、亡和美の逸失利益は、次の計算式のとおり、六一三六万七五〇九円(円未満切捨て)となる。

なお、中間利息の控除は稼働期間が四一年間にわたり、かつ全稼働期間にわたり勤務歯科医師の平均収入を基礎としていることに鑑みると、ライプニツツ方式によることが相当である。

537,640×12×0.55×17.2943=61,367,509円

2  亡和美の慰謝料

原告早苗本人尋問の結果、弁論の全趣旨から認められる、亡和美が、事故当時単身者であつたが、父母の離婚により母子家庭となつた境遇の中で、精一杯の努力をして歯科医師免許を取得し、更に歯学部同期生との婚約も整い、幸せな人生を迎えようとする時期において、被告邦幸の無謀運転により、一命を落とした無念さ等を考慮すると、その慰謝料は二〇〇〇万円が相当である。

3  相続関係

原告らが亡和美の父母であることは争いがなく、弁論の全趣旨により法定相続分の各二分の一の割合で相続した事実が認められる。

4  原告早苗の損害

甲第四七号証、甲第四九号証の一、二、甲第五〇号証の一、二、三、原告早苗本人尋問の結果によると、原告早苗が葬儀関係(位牌を含む)費用として合計二七〇万二四五〇円を支出したことは認められるものの、亡和美の年齢、経歴、社会的地位等を考慮に入れると、同女の葬儀費用として相当な額は一〇〇万円と認定するのが相当である。

なお、甲第五一号証の一、二に原告早苗本人尋問の結果によると「原告早苗は墓地購入費用として二二五万五二〇〇円を支出した。」ことが認められるところ、右各証拠及び乙第一号証の一ないし三から認められる「原告家には、先祖代々の墓地があるところ、亡和美の墓参りの便宜から特に岡山市内に、先祖の墓石も併せて設置する場所として、今回墓地を購入したものである。」ことを考慮すると、墓地購入費用を、その二分の一の金額にしろ、本件事故と相当因果関係にある損害とみることは困難というべきである。

また、前掲各証拠に甲第五二号証の一、二から認められる「亡和美のための墓石に相当する観音地蔵尊碑の代金七四万円」は本件事故と相当因果関係にある損害というべきであるが、右各証拠から認められる、その他の費用は、本件事故と相当因果関係にある損害と認められない前記墓地施設関係の費用であるから、これを損害と認めることはできないというべきである。

5  原告ら固有の慰謝料

原告早苗

甲第四六号証、原告早苗本人尋問の結果から認められる「原告早苗が原告英世と離婚後、女手一つで長女の亡和美と二女を養育し、亡和美の成長を楽しみにし、また誇りとして来たところ、その掌中の玉というべき亡和美を一瞬の事故により失つた心情」に徴すると、その精神的苦痛は察するに余りがあるというべきところ、前認定のとおり亡和美に対して、本件事故の特殊性を考慮に入れて、同女の慰謝料額を算定しているところにより、相当程度、同原告の精神的苦痛は慰謝されるべき筋合であることを考慮すると、同原告に対する慰謝料は五〇〇万円が相当である。

原告英世

原告両名の各本人尋問の結果によると、原告英世は原告早苗と離婚後は、亡和美と別居し、音信が絶えたような有様であつて、その生活費や学資も負担していなかつたことが認められること、前認定のとおり、亡和美に対しては本件の特殊性を考慮に入れた慰謝料額を算定し、また、亡和美を養育した原告早苗に対しても、これを考慮した慰謝料額を認めている本件においては、原告英世の父親としての精神的苦痛の慰謝料は一〇〇万円が相当というべきである。

6  まとめ

原告早苗の損害

亡和美の逸失利益六一三六万七五〇九円と慰謝料二〇〇〇万円の相続分である各二分の一の四〇六八万三七五四円(円未満切捨て)及び葬儀費用一〇〇万円、墓石代金七四万円並びに固有の慰謝料五〇〇万円の合計四七四二万三七五四円

原告英世の損害

亡和美の逸失利益六一三六万七五〇九円と慰謝料二〇〇〇万円の相続分である各二分の一の四〇六八万三七五四円(円未満切捨て)及び固有の慰謝料一〇〇万円の合計四一六八万三七五四円

五  損害の填補

原告らが自賠責保険金二五〇〇万円の支払を受けた事実は争いがなく、その相続分に相当する二分の一の各一二五〇万円を損害の填補に充てたことは弁論の全趣旨によりこれを認めることができるので、未填補損害は原告早苗が三四九二万三七五四円、原告英世が二九一八万三七五四円となる。

六  弁護士費用

原告らが本件の提起、追行を原告訴訟代理人弁護士に委任していることは弁論の全趣旨に照らし明らかであるところ、本件事案の難易、訴訟経過、認容額等に徴すると、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は原告早苗について一〇〇万円、原告英世について三〇万円が相当である。

七  結び

原告らの本件請求は、被告邦幸に対して、原告早苗が金三五九二万三七五四円、原告英世に対して金二九四八万三七五四円、及び右各金員に対する本件事故の日の昭和六三年一〇月二一日から完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、同被告に対するその余の請求は理由がなく、被告規允及び被告二三子に対する請求は全部理由がなく、被告連合会に対しては、被告邦幸に対する本件判決の確定したとき、対人賠償共済金一億円の限度内で、原告早苗は金三五九二万三七五四円、原告英世は金二九四八万三七五四円、及び右各金員に対する本件事故の日の昭和六三年一〇月二一日から完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきものである。

よつて、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三島昱夫)

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